ごろねこ倶楽部
私が好きなまんが家のひとりに大山学(大山學・大山まなぶ)がいる。
残念ながらファンクラブやファンサイトの存在を知らないので、ささやかに非公式のファンクラブを作ることにした。
個人的に大山作品を読む以外のことは何もしないが、作品などの情報をお寄せいただければ嬉しく思う。
私は大山氏について何も存じ上げないが、
「貸本マンガ研究」(シナプス刊・3〜8、11、12号)に氏が連載していた『私記貸本漫画家』によると、
「19歳で貸本漫画家として出発し、ほぼ四半世紀、私は漫画家の看板を掲げて渡世してきた」(同誌12号・61頁)とあるので、
1990年頃にまんが家としての筆を折ったようだ。
その後、青林堂の故長井勝一社長を偲ぶ会に出席した際の自身について、
「ある新聞社系広告代理店の東京事務所長という立場の、背広とアタッシュケース姿の私はサラリーマンに変身していた」と書いており、
広告業界に転身したのであろう。
昔の作家の作品が復刻される機会が少なからずある現在、私は青年誌に掲載された大山学作品が作品集としてまとめられることを願っている。
いずれ、そうした活動を応援できるファンクラブとなれれば幸いである。
★大山学★
1947年、鹿児島県生まれ。12歳から17歳を大阪で過ごす。
18歳で上京。影丸譲也の単行本(東考社)に短編「隆の進学」を発表。
東京トップ社から『好きだよ由美ちゃん』を出すなど、貸本マンガを手がける。
その後、芳文社の『コミックマガジン』、秋田書店『ヤングコミック』、虫プロ『COM』、青林堂『ガロ』に作品を発表。
70年代は小説の挿絵を描く。現在、自由業。
(「貸本マンガ史研究」3号・シナプス・2000年12月刊より)
なお、『あした晴れる』の記載によると、生年月日は1947年12月22日とのこと。
大山まなぶ オリジナル劇場 (東京トップ社・刊) |
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私が初めて読んだ大山学の作品は「COM」1970年5/6合併号に掲載された『オリエント急行』である。ただ、その時点で大山の名を知っていたので、「ガロ」に掲載された先行作品を読んだことがあったかも知れない。あるいは、まんが同人仲間の噂で名前だけを聞いていたのかも知れない。そのへんの記憶は曖昧だが、とにかく私が最初にインパクトを受けた大山作品が『オリエント急行』であった。正直にいうと、まんが作品としてではなく、その絵に惹きつけられたのである。描き殴ったように見えるラフな線が、慎重に最良の線を選びとってあり、すべてのコマがイラストとして自立していた。当時、絵の巧い作家が続々と輩出していたまんが界であったが、私の好みに適うような絵を描く作家は少ない。その頃、私が最も絵が好きだった作家はあすなひろしである。やはりイラストとして自立する絵を描く作家だが、綺麗で繊細な線は大山とは一見対極にあるように見える。だが、白い紙の上に最良の線を探り出す作家として同質のものを感じた。 |
引き続き「COM」には9月号まで大山作品が掲載されている。とくに7月号の『CRUISING』はイラストに感覚的な文章を添えた作品だが、その絵はまんが少年であった私にとってしばらく手本となった。まんがとしては8月号の三億円事件をモチーフにした『零の発見』が面白かった。私は大山作品をもっと読みたいと思ったが、9月号に旅行記にイラストを添えた作品(それは連載の予定であった)が最後となり、以後「COM」で大山作品を見ることはなくなった。たまに「ガロ」と「ヤングコミック」で見かけたが、どちらも私が常時購読している雑誌ではなく、大山作品も毎号掲載されているわけでもないので、見逃した作品が多い。 それでも私は楽観的であった。そのうち作品集が刊行されるだろうと思っていたのである。当時、大山と同じようなポジションにいた作家は、青林堂や虫プロ、あるいはブロンズ社といった出版社から作品集を刊行していた。大山の作品集が出ることは確実に思えた。 |
その頃、「ヤングコミック」に発表された作品を何作か読んでいたが、とくに『予感のない旅』という作品に私は惹かれた。この作品だけは、作品集の刊行を待つなどともいわず、切り取って保存した。私の記憶に残っている他の大山作品は、絵の個性は別にして、作家性を持ち始めた「劇画作家」ならだれが描いていてもおかしくない「まんが」であったと思う。いや、実際には他の作家ではなく大山が描いたのだから、十分に大山作品としての個性を持っていたが、私には、宮谷一彦が描く『オリエント急行』とか、真崎・守が描く『零の発見』とかを想像することができた。だが、『予感のない旅』はこれぞ丸ごと大山学といえる作品であり、他の作家に置き換えて想像することはできない。この作品については、いずれ「ごろねこ」のほうで分析してみたい。ともあれ、私はますます大山の作品集を待ち焦がれるようになった。 だが、いくら待てど大山の作品集は刊行されなかった。現在のように情報が行き渡ってはいない時代なので、私が作品集刊行の情報を聞き逃した可能性もあった。そのあたりの事情は曖昧なまま、大山作品を見る機会はなくなっていった。 |
はっきりした年月は覚えていないが、1975年頃だったと思う。まだ私に帰省先があった頃、帰省中に田舎の古書店で大山学の単行本を見つけた。「おっ」と思ったが、それは東京トップ社の貸本向けの単行本が(倒産によるゾッキ本なのか)古書店へ流れていたのだった。そのとき初めて私は、雑誌デビュー前の大山学が貸本を描いていたことを知った。それが大山の最後の貸本である『よにもふしぎなものがたり・若者』だった。1冊50円か100円だったので、今なら全部(といっても10冊ぐらい)買うだろうが、そのときは3冊買っただけである。あとの2冊はみやはら啓一の『ふりむけジュリアン』前後編だったと思う。『よにもふしぎなものがたり』というのは、そのシリーズの前巻『見えない手』でタイトルを予告しておいたためにサブ・タイトルとして使われているが、内容とはあまり関係ない。漁師の父を海の事故で失くした息子が、辞めていた漁師に復帰するまでの話である。絵には永島慎二の影響がずいぶんと見受けられた。 |
その後は、夕刊紙の連載小説だかエッセイだかのイラストを担当しているのを見たことがあった。何かの雑誌にコマまんがのような作品を描いているのも見た気がするが、確認が取れない。先の『私記貸本漫画家』によると、原作つきの描き下ろし本などもあるらしいが詳細は不明である。 |
現在、大山学の新作は読めない。復帰して新作を描く可能性はあり、そうなればぜひ読みたいが、差し当たって私自身がそれを望んでいるわけではない。私にとっての大山学は、1970年前後に貸本から青年誌に移ってまんがを発表していた作家である。その多くの作品を私はまだ読んでいない。今後、遅ればせながら、それらの作品を探して読んでいきたいと思う。それは、当時の大山学を探すのではなく、大山のような絵を描きたいと憧れたまんが少年であった自分を探すことになろう。 私にとっての大山作品とは、失われた時を求めてページをめくる愉悦なのかも知れない。 |
作品リスト | ||||
年 | タイトル | 初出等 | 頁数 | 備考 |
1959年 | ※不明 | 日の丸文庫の新人賞入選作 | 約20頁 | ※ |
1665年 | ある日突然に! | 東京トップ社・影丸譲也の単行本『あした晴れる』収録・65年6月作 | 17頁 | J・影丸シリーズ・14 |
うらぎり | 東京トップ社・『若人の詩』に収録・65年7月作 | 19頁 | J・影丸シリーズ・16 | |
1966年 | 隆の進学 | 東京トップ社・『追跡』収録・65年11月作 | 33頁 | J・影丸シリーズ・18 |
若い波紋 | 東考社・ホームラン文庫・影丸譲也の単行本『歌え!青春』に収録・66年2月作 | 39頁 | ※ | |
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好きだよ由美ちゃん! | オリジナル劇場第1話・5月脱稿 | 125頁 | 単行本 | |
ヘルプ(HELP) | オリジナル劇場第2話・6月脱稿 | 125頁 | 単行本 | |
皮 | オリジナル劇場第3話・8月脱稿 | 125頁 | 単行本 | |
ねえちゃん | オリジナル劇場第4話・9月脱稿 | 120頁 | 単行本 | |
骨 | オリジナル劇場第5話・11月脱稿 | 121頁 | 単行本 | |
1967年 | 見えない手 | オリジナル劇場第6話・3月脱稿 | 117頁 | 単行本 |
1968年 | 死線突破 | 「少年ブック」新年増刊号 | 36頁? | ※ |
よにもふしぎなものがたり・若者 | オリジナル劇場第7話・2月脱稿 | 113頁 | 単行本 | |
死神の遺産 | 「コミックmagazine」4/2増刊号 | 19頁 | ※ | |
とむらいのバラード | 「コミックmagazine」5/21増刊号 | 24頁 | ※ | |
葬る眺め | 「ヤングコミック」6/25号 | 24頁 | ※ | |
断罪 | 「漫画パンチ」6/26号 | 20頁 | ※ | |
錆色の雨 | 「コミックmagazine」7/23号 | 19頁 | ※ | |
傷だらけの白衣 | 「漫画パンチ」8/14号 | 27頁 | ※ | |
愛炎情歌 | 「ヤングコミック」10/8号 | 25頁 | 作・神保史郎 | |
戦士の休息 | 「漫画パンチ」11/13号 | 26頁 | ※ | |
渇き | 「トップコミック・劇画マガジン」秋の増刊号12/1号 | 20頁 | ※ | |
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1969年 | 遭難 | 「ガロ」1月号 | 27頁 | ※ |
禁断の部屋 | 「ヤングコミック」1/14号 | 23頁 | 作・神保史郎 | |
化石の森 | 「ガロ」6月号 | 24頁 | ※ | |
アイドルを探せ | 「トップコミック・劇画マガジン」7/9号 | 24頁 | ※ | |
海賊の罠 | 「漫画パンチ」8/13号 | 16頁 | ※ | |
※ | ||||
1970年 | オリエント急行 | 「COM」5・6月合併号 | 32頁 | ※ |
サムライ | 「ヤングコミック」6/10号 | 24頁 | ※ | |
CRUISING | 「COM」7月号 | 16頁 | ※ | |
零の発見 | 「COM」8月号 | 32頁 | ※ | |
幻想の異国@ | 「COM」9月号 | 16頁 | 旅行記とイラスト | |
※ | ||||
1971年 | ノスパイフ戦線・第3部 | 「ヤングコミック」1/13〜5/12号連載 | 計260頁 | 作・小池一雄 |
きのうの予感 | 「ガロ」2月号 | 32頁 | ※ | |
弔弾を撃て! | 「ヤングコミック」4/11増刊号 | ?頁 | ※ | |
Gのクルージング | 「ヤングコミック」6/9号 | 23頁 | ※ | |
予感のない旅 | 「ヤングコミック」11/24号 | 25頁 | ※ | |
あしたの思い出 | 「ガロ」11月号〜72年8月号連載(未完) | 計148頁 | ※ | |
1972年 | 俺に墓碑銘はない… | 「ヤングコミック」8/9号 | 16頁 | ※ |
白い航跡 | 「ヤングコミック」9/26増刊号 | ?頁 | ※ | |
ハッサンという男 | 「ヤングコミック」11/21増刊号 | 20頁 | ||
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1973年 | 闇よ | 「ヤングコミック」1/9増刊号 | ?頁 | ※ |
きりのゆきけしき | 「ヤングコミック」2/14号 | 25頁 | ※ | |
乱影 | 「別冊漫画アクション」4/14号 | ?頁 | ※ | |
人斬り哀歌 | 「ヤングコミック」8/7増刊号 | ?頁 | ※ | |
陰の舞い | 「別冊漫画アクション」8/25号 | ?頁 | ※ | |
1974年 | 東京弦楽死重奏団の伝説 | 「ヤングコミック」2/27号 | ?頁 | 作・岡崎英夫 |
さらば愛しき女よ | 「漫画快楽号」? | 32頁 | ※ | |
1975年 | 悲炎 | 「ヤングコミック」1/7増刊号 | ?頁 | ※ |
1985年 | まんが家残酷物語 | 「MY ANIME」増刊「コミックOZ」創刊号 | 2頁 | ※ |
ボクシングジャ〜ン | 「漫画エロトピア」増刊「ピンクのお尻・青春しちゃうネ!」和気一作・秘蔵本1集 | 4頁 | ※ | |
賭博師たち(とらわれのギャンブラー/さすらいのギャンブラー) | 「漫画エロトピア」増刊「ピンクのお尻・青春しちゃうネ!」和気一作・秘蔵本2集 | 各4頁計8頁 | ※ | |
1987年 | 夢のつづき | 「特選麻雀」8月号 | ?頁 | ※ |
1988年 | ブレイク・ウェイブ | 「特選麻雀」1月号 | ?頁 | ※ |
獲物あさり | 「特選麻雀」6月号 | ?頁 | ※ | |
THE TRAPPER | 「特選麻雀」8月号 | ?頁 | ※ | |
1989年 | 冬の旅人 | 「特選麻雀」1月号 | ?頁 | 闘牌原作 荒正義 |
悲しみの家 | 「特選麻雀」4月号 | ?頁 | ※ | |
情事 | 「特選麻雀」7月号 | ?頁 | ※ | |
再会 | 「特選麻雀」10月号 | ?頁 | ※ | |
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年度不明 | 革命的エロチスト | 初出誌不明 | ?頁 | ※ |
狩猟の愉しみ | 初出誌不明 | ?頁 | ※ | |
戯れに殺しは選ぶまじ | 「長編漫画ジャイアント」 | 24頁 | ※ | |
追跡 | 「長編劇画」8月号増刊 | 40頁 | ※ | |
ロンリーフリーウエイ | 「劇画パニック」? | 10頁 | R・栖丸名義 | |
いんびてしおん | 初出誌不明 | 10頁 | R・栖丸名義 | |
クレマンの牝犬 | 「劇画ブッチャー」? | 14頁 | R・栖丸名義 | |
注文の多いレストラン | 「劇画ブッチャー」? | 16頁 | R・栖丸名義 | |
いりゆみなしおん | 初出誌不明 | 16頁 | R・栖丸名義 | |
薔薇と道化 | 初出誌不明 | 6頁 | R・栖丸名義 | |
カム・メイク・ミ | 「劇画ブッチャー」? | 8頁 | R・栖丸名義 | |
茉莉へ | 初出誌不明 | 9頁 | R・栖丸名義 | |
検事発狂 | 平凡パンチ冬の増刊 | ?頁 | ※ |
◆リスト作成協力/マンチュウさん、HIDEさん、想田四さん、GARRETさん、夢の屋さん X林田さん はやしさん ◆画像協力/マンチュウさん、HIDEさん
「R・栖丸」名義作品については『まんだらけZENBU』30号(2006年3月10日発売)の原画販売カタログ・コーナーの情報に拠る
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